「せっかく…蓮哉が…背中、」





「いいから。泣くな」





なぜかあたしは自分を責めている。


流されたから。


裏切ったから。


頑張れなかったから。






「無理に終わろうとしなくていい」




「でも…、本当に終わろうと思ってたの」




「もう少し頑張ればいいだろ」





今日の蓮哉は、


なんだか大人の男の人のようで。





「俺は何も変わんねぇし、お前もお前」





何だか頼もしいと思った。


かっこいいと思った。





「別れなかったからって何も変わるわけじゃねーだろ」




「そうだけど…」




「また終わらないとって思ったら俺が背中押してやるから」





蓮哉はあたしを離して、


乱れた髪を手櫛で直してくれる。






「辛い時は俺に頼れ。旅行も連れてってやる。飯もしゃあなし、奢ってやる」




「しゃあなしって…」




「俺がお前の頑張り、見ててやるから」






その言葉に頷いて見せると。






「今日の俺、結構かっこよくね?」






なんて調子に乗るものだから。


髪に触れている蓮哉の手を軽く叩き。






「全然。微塵もかっこよくない」






なんて言ってやった。


蓮哉は悔しそうな顔をしていたが、


あたしは心が少し軽くなった。


もう少しだけ。


このままでもいいのかな。


悠太郎と自然と離れようと


することが出来るかな。






「また連絡する」





「うん。来てくれてありがとね」






まだ家の中は暗い。


お母さんが帰って来ていない証拠。






「木嶋さんのこともいいけど」





「ん?」





「お母さんに何かしてやれよ」






蓮哉って、


こういう所あるよね。


意外と優しいっていうか。


思いやりがあるっていうか。






「ん、何かする」





「じゃあまた」






蓮哉はあくびを1つこぼし、


家の方に向かって歩いて行った。


あたしはお礼をしないといけない人が、


たくさんいる。


いつか蓮哉にも何か出来たらいいな。


ありがとう、って。


何か形に出来たらな。


そんなことを思いながら家に入った。






「痛っ…」





蓮哉があんなことを言うものだから、


お母さんに何かしてあげようと、


包丁を手に取った。


冷蔵庫にある具材で夕食を作ることに。


お皿に盛り、ラップをかけ、


いつもありがとうと一言メッセージ。


朝起きると、お返しに、


飴が1つと、いってきますの


メッセージが添えられていた。