「久しぶりだね、木嶋さん」
「最近忙しくてね。元気?」
2人の会話があまりにも
楽しそうだったから、
つい黙り込んでしまう。
ちょいちょい話題を振られるが、
愛想でしか返せない。
それよりも、自分の今の
状況が信じられなくて。
何であたし、この人の言いなりに
なって注文してんだろう。
「じゃ、ごゆっくり」
あたしがパフェを食べ終えたあと、
店員さんはあたしに軽く
会釈をして、カウンターに
戻って行く。
慌てて会釈をし返すと。
「ごめんね、話しすぎて」
「いえ…お構いなく」
顔が上げられない。
何だろう、何か。
「行こうか」
「はい」
恥ずかしい。
それがピッタリ当てはまる。
木嶋さんがお会計を済ませ、
店の外に出ると、
そこには1台のタクシー。
「乗って?」
「あたしの家、ここから近いんで…」
「いいから。送らせてよ」
この人の優しさに甘えて、
先に乗り込ませてもらった。
運転手さんに場所を聞かれ、
簡単に道案内をする。
後部座席で隣に座る木嶋さんは、
疲れているのか、少し溜息をついている。
あたしはそれを横目に、
何かしてあげられることはないか、と
鞄をあさった。
そして出て来た食べかけの、のど飴。
「お嬢さん、着きましたよ~」
運転手さんの声に、
いくらですかと尋ねると。
「いいから。俺の帰る途中だし」
何を言っても断れず、
黙って車を降りることに。
ゆっくり開けられた窓から、
木嶋さんがあたしを見つめる。
あたしはすかさず、
さっき取り出したのど飴を
差し出した。
「安いお礼です」
こんなことしか出来ないけど。
だけど、どうしても、
ほっとけなかった。
「ありがと」
少し触れた、木嶋さんの手に、
不覚にもドキドキさせられて。
「またね」
そう言って去って行く車を
見つめながら、
ドキドキの理由を
必死に探した。



