真っ白の頭が、
いつまでも動いてくれない。
悠太郎の奥さんは、
間近で初めて見たけど。
すごく女性らしい、
上品な人だ。
「電話もらった時、一緒にいたんで連れて来ちゃいました」
すいません、と言う蓮哉に。
「大勢の方が楽しいわ。どうぞ、みなさん上がってください」
奥さんは人数分のスリッパを
玄関に並べた。
「パパーっ、お客さん!」
奥でそんな声がして。
女の子と一緒に玄関に出て来た
悠太郎は。
「いらっしゃ…い」
あたしたち4人を見て、
悠太郎は笑顔が固まった。
「悠くん、どうしたの?」
「いや、別に…」
「2人とも彼女がいるんですって、悠くん知ってた?」
「うん。まあね」
動揺を隠せないのか、
悠太郎はちょっとも笑わない。
そんなあたしも、
ちょっとも笑えない。
そうだよね。
悠太郎もこんなこと、
予想してなかったよね。
「妃名子、中入れる?」
空気を読んで、
中に入って行った蓮哉と千秋さん。
それでもまだ中に入れない、
あたし。
それに付き合ってくれてる、
鳴海。
「ごめんね、鳴海」
だって違うんだよ。
やっぱり違うんだよ。
いつもあたしだけがいる空間と、
今ここにいる空間が。
この前ここに来た時と同じ、
違う感じがするの。
そう感じる度に。
あー、この場所は、
ここの空間は。
悠太郎は。
あたしのじゃないんだって、
実感させられるんだよ。
「今から帰っても別に…」
「大丈夫」
ここまで来たら仕方ない。
悠太郎の奥さんはあたしを、
蓮哉の彼女だと信じてる。
だったら途中で帰ったら、
変に思われちゃう。
心を決めたあたしは、
ぐっとこらえて奥に入ることにした。
「2人ともおいくつ?」
キッチンの前で何かを
用意しながら、
奥さんはあたしたちに問いかけた。



