「妃名」





駐車場に行くと、


白いタンクトップを着た


蓮哉が外にいて。





「飲み物いらね?」




「あ、欲しい」





鳴海が変なこと言うから。


タンクトップとは真逆の


こんがり焼けた黒い肌だとか。


たくましい腕だとか。


全部が全部、


かっこよく見えちゃって。





「何欲しい?」




「あっさりしたやつ」





お前自分で選べよ、なんて。


そんな冷たい言葉も全部、


愛おしく思えちゃう。


あたし、単純なのかな。


洗脳されてるのかな、鳴海に。


好きなのかな、この人のこと。





「ほらよ」





「ありがと」





その後、後部座席に乗り込み、


蓮哉が運転する車で


悠太郎の家に向かった。


思ったより時間がかかり、


疲れたあたしと鳴海は


肩を並べて眠ってしまうはめに。


起きた時には、もう到着していて。





「妃名」




「ん…着いた?」




「お前起きるの待ってんだけど」





そう言われ、


びっくりして飛び起きる。


さっきまで横にいた鳴海は、


もう外にいて。





「行くぞ」





「うん」





車を降り、エントランスをくぐる。


蓮哉も千秋さんも、


慣れている感じで中に入って行く。


ここは、あたしは半年くらい、


通い続けた場所。


18階に到着し、


前に立った蓮哉と千秋さんが


インターホンを鳴らす。


手に汗を握る。


ただでさえ暑いのに。





「はーいっ」





玄関のドアが開いて聞こえて来た声は。


悠太郎でもなく、誰でもなく、


小さな女の子だった。





「ママー!お客さん来たよーっ!」





「はーい」





聞いてない。


これは予想外の展開。


ここにいる誰もが、


これを予想してただろうか。






「お久しぶりです、蓮哉くん、千秋くん」





出て来た女性は、


あの日見た人。


きっと、というか絶対、


悠太郎の奥さん。





「すいません、お邪魔します」





千秋さんが礼儀正しく、


動揺を見せずに挨拶する。


蓮哉は言葉が出ないのか、


何も言わず会釈だけ。





「あの…そちらの方は?」





奥さんは蓮哉と千秋さんの間から、


ひょっこり顔を覗かせる。


なんて紹介しようか。


1人焦っている時。





「俺の彼女の吉川妃名子です」






そう言って、


蓮哉があたしを紹介してくれた。





「こっちの子は、千秋の彼女候補の伊藤鳴海ちゃんです」





鳴海は笑顔で軽く会釈をした。


あたしはというと、


ただただ固まって何も出来なくて。