「お願い」




そう言うと、蓮哉は


めんどくさそうに頭を掻き、


先にベッドに横になった。





「棒のように寝ろ」




「…え?」




「狭いから。場所取るなってことだよ」





ほら、早く来いよ。


そう言って蓮哉はあたしを呼んだ。


何でだろう、あたし。


本当に嬉しい。


そう思った。





「頭乗っけろ」





そう言って自分の腕を差し出す。


いわゆる、腕枕。





「頭重いよ?」




「軽い軽い。脳みそ詰まってねーだろ、お前」





腕枕すりゃ少しは広いだろって。


そう言うから、遠慮せずに


腕枕してもらうことにした。


蓮哉は上を向いて。


あたしは蓮哉を見て。






「楽しいね、蓮哉」




「明日朝ごはん作れよ」




「何でもいいの?」




「食べられるの限定で」





目の前スーパーだし、


朝何か買いに行けるかな。


何作ってあげよう。


蓮哉何が好きなのかな。





「ね、蓮」




「何?」




「また、来てもい?」





蓮哉は小さく笑って。





「お前が嫌がっても連れて来る」





そう言った。


蓮哉はあたしのヒーローみたい。


いつもあたしを助けてくれる。


あたしの、心の、ヒーローみたい。






「おやすみ」




「ん、おやすみ」






久しぶりに、何も考えず、


ゆっくり眠れた気がした。


いつも何か考えたり、


悠太郎といても、


いつまでいれるのかなとか。


そんな余計なことを考えちゃって、


なかなか眠れなかったりしたから。


だから蓮哉といて、


何も考えず夢の中に入れた。


明日はとびきり美味しい朝ごはんを


作って、びっくりさせてやるんだから。


今に見とけ、牧瀬蓮哉。


そう思って眠りについたものの。






「…ん、朝?」





目覚めたらもう辺りは明るくて。





「うっわ、やば」





朝ごはん作んなきゃ。


てゆうか、何作ろう。


そんなことを考えながら


隣を見ると、もう蓮哉はいなくて。





「蓮哉、ごめん!」





リビングに行くと、


蓮哉の姿の変わりに書置きと。





"お前の寝顔にびっくりして起きた。合鍵置いてくから、閉めてって"





小さな銀色の鍵が、


机の上に置いてあった。





「わー、最悪」





とびきり美味しいご飯を作って、


びっくりさせて。


妃名子ってすげーなって。


そう思わせるはずだったのに。


まさかのあたしの寝顔にびっくり


されて終わってしまうという。


女としての終わりを感じた気がした。