「え、パン?」





「昼買ったのだから、腐ってるかもだぞ」





「いいんですか?」





目をキラキラして言う私に。






「それ持ってとっとと帰れ。補導されても知らねーぞ」





「ありがとうございまーす」





やった、と思いながら店を出る。


出入り口が特別にあるわけでもなく、


お客さんたちと同じ場所から出る。






「お腹空いたっ」





店長にもらったパンを開け、


口に頬張る。


その時。






「こんばんは」






目の前のガードレールに


腰を掛けてこっちを見ている。


この間、ズボンにビールを


かけちゃった人。






「こんばんは…って、何で?」





かぶり付いたパンを、


かじることなくそのまま出した。


驚いたんだよ。


まるで私を待ってたみたいな


タイミングで、立ち上がるから。


出てきて嬉しいみたいな顔で、


私を見つめていたから。


待ってられたことなんてないから、


ドキドキしたんだよ。






「待ってたんだ」





「誰を、ですか?」





そう尋ねると、


目の前の彼はゆっくり


私を指差して。






「君を」






そう呟いた。


ちょっと付き合って、と


言われて、従う私。


どこに行くんだろう。


何をするんだろう。


何のために私を


待ってたんだろう。


も、もしかして、


この間のお詫びをしろとか。


金払えとか。


1人そんなことを考えていると。






「ここ、入るね」






こじんまりとした大人の雰囲気の


カフェに入って行った。