「ちょっとお手洗い」





料理が運ばれる前に、と


あたしは席を立つ。


わずか数分。


たったそれだけなのに。





「えー!かっこいい!」





「俺もそう思う。千秋まじすげーな」





「いや、お前も出来るだろ」






3人は仲良くなっていた。


あたしは1人、乗り遅れ。






「あ、妃名子、おかえりーっ」





「盛り上がってるね」





席に着くと、


待ってましたと言うように、


鳴海が話し始める。





「千秋さんと蓮哉さん、サーフィン得意なんだって!」





「サーフィン?」





「そう!後ね、スケボーとかするんだって」





そう言われて2人を見ると。


蓮哉がずっとどや顔であたしを見るから。


無性に腹が立って、顔を歪めてやった。





「んだよ、妃名」




「蓮哉がサーフィンとか、似合わない」





千秋さんは似合うけど。


なんて、冗談を言うと。


結構ガチでキレられた。






「失礼いたします」





和装をした店員さんが、


料理を運んで来てくれる。


一瞬で部屋の中が、


美味しそうな匂いで包まれた。





「いただきます」





一口、二口、


どんどん箸が進む。


日本人でよかった、と


思う瞬間で。






「千秋さん、あたし注いであげる」





鳴海は箸を持つよりも先に、


千秋さんのグラスに


ビールを注ぎ始める。


あたしはというと。


箸を持ったまま、


ぼーっと見てるだけで。





「お前も注げよ」





「や、やだよ」





「可愛くね」





蓮哉は少し拗ねたように


あたしを睨んで、


自分でビールを注いだ。


こういう所、あたしは


鳴海に勝てない。


きっと鳴海は、


計算とかじゃなくて、


気の利く子なんだよな。


その点、あたしは。


気の利かない子。


真似したいのに、


いざとなると強がる。


そんな自分が、


時に嫌になる。







「美味しかったぁ」





「ね。こんな所あるなんて知らなかった」






ご飯が終わり、


満足そうにお腹を擦る鳴海。






「あ、そうだ」






何かを思い出したように、


携帯を取り出すと。






「連絡先、交換しません?」





嬉しそうに提案した。