「ねー、」





校舎を一通り見た後、


さっき入った場所から


また外に出た。





「牧瀬さん、何で連れ出したの?」




「蓮哉」




「え?」




「蓮哉でいいから。牧瀬さん、て、後輩じゃあるまいし」




ま、友だちでもねーんだろうけど。


そうやって言うから、


蓮哉って呼んであげることにした。





「蓮哉、ここの先輩じゃん?」





「だー、うるせえ」





蓮哉は先に校門を登り、


またあたしを受け止めてくれた。





「さっきのことだけど」




高校から離れて、


宛てもなく歩いている時。


蓮哉がゆっくり話し出した。





「え?」





「何で連れ出したかってやつ」





「あー…うん」





別に目指したわけじゃないのに、


いつの間にか蓮哉の会社の前で。






「泣きそうだったから」






そう言いながら、


初めて会った時にあたしが


座っていた場所に


蓮哉は腰を下ろした。





「誰が?」





「お前。さっきも、ここで会った時も」





そう言われて。


初めて自分がそう見られている


ことに気付いた。


あたしは悲しい姿を


ひた隠しにしてきた。


つもりだった。


悲しいわけがない。


悠太郎がいるじゃん。


あたしには、


悠太郎が、いるから。


だから、だから。


…でも。


やっぱり、悲しい。


それの繰り返し。


街に出れば幸せそうな人たちが


たくさんいて。


学校にいれば、


あの子とあの子が


付き合っていて。


みんな、好きな人と一緒に


いられるのに。


何であたしはいられないの。


そんなことばかりが、


いつも頭を過ぎってる。






「そんなこと、ないもん」





だから、


気付いてくれたことが、


嬉しかった。






「送ってく」





「いいよ、ここから近いし」





蓮哉は何も言わないし、


何も聞かない。