「何で知ってるの?」





「何が?」





「窓、開いてること」





「ここの卒業生だから」





在学生でも知らないのに。


あんな場所を知ってるって、


結構悪い子だったのかな。






「牧瀬さん、運動得意なの?」





「得意ではねーけど、結構好き」




「あんな動いて、大丈夫?おじさんなのに」




「ばーか。まだ23歳だっつーの」





さっきまで悲しくなってたのに。


おかしいな、平気だ。


それよりも、あたしの鞄が


似合わなさすぎて可笑しい。






「ここ、俺が3年の時のクラス」




3階のある教室。


そこは。





「あたしもここだよ?」





ここ、あたしの席。


そう教えて、イスに座る。






「いい席だな、お前」





窓側の1番後ろの1番端。


あたしはここで、


いつも授業を受けている。





「俺、1回ここになったことあってさ」





牧瀬が座ったその場所は、


中央の1番前の席。


先生の真ん前。





「寝てたらすぐ起こされるし、何かと雑用させられるし、最悪だったわ」





「今でもそんな感じだよ」





教師って、職権乱用だよな。


なんてまじめな顔で言うもんだから。


あたしは笑いが止まらなくて。






「お前と同じクラスだったら、絶対パシリにしてた」






あたしの席の前に来て、


机に腰かける牧瀬。






「牧瀬さんと同じだったら、絶対話したくないもん」





「離したくない、の間違いじゃなくて?」





「絶対それはない」






いつの間にか、


心が休まってる。


今の時間が、


あたしの中で自然に


受け入れられてる。






「そんなこと言われたら、抱きしめてやったのに」






「嘘でも頼まないから」






男は悠太郎だけ。


悠太郎さえいれば、


誰もいらない。


そう思ってた。






「落書きしてこ」





「何書くの?」





あたしの鞄からシャーペンを


取り出す牧瀬。


この人と過ごすこの時間は、


あたしの生きる中での


数時間でしかない。






「秘密」





「見たい」





「お楽しみってことで」






だけど、すごくすごく楽しくて。


何も知らない牧瀬のことを、


知りたいとまで思うようになっていた。