あたしのことを、


気にしてほしくない。


あたしが一緒にいたいだけ。


ただそれだけだから。


だけど、やっぱり。


この光景は胸が痛い。





「ばかだよな、まじで」





突然隣にいた牧瀬が。





「ほっとけよ、あんなやつ」





「え?」





あたしの手を掴んで。





「ちょ…何っ、」





走り出した。


もちろん悠太郎は置いて。






「待って、ちょっと」





「黙ってろ」





久しぶりに走ったからか、


すごく苦しい。


息が切れる中、


なぜか周りが輝いて見えた。


涙のせいか、


何のせいか。






「懐かし」




「ここって…」





結構走って、


辿り着いたのは、


あたしの通っている高校。


昼間と違って、少し怖い。






「入るぞ」





牧瀬はそう言って、


軽々と校門を登って行く。


そんな姿が、


少しかっこよく見えたりして。






「お前も登って来いよ」





「ちょっと、だめだよ」





「いいから、来い」






必死に抵抗するも、


抵抗しきれず。


仕方なく登ることに。


手に持っていた鞄を先に投げ、


校門によじ登る。


門の頂上で跨いだ時。





「飛べ」





「は、無理だって」





「受け止めるから」





半信半疑。


だけど、信じるしかない。


あたしは思い切って、


牧瀬の元へ飛んだ。


どうせ落とされるんだろうな、


なんて思ってたのに。


牧瀬はあたしを見事キャッチした。






「ご、ごめん」




「信じてなかったろ」





あたしを下ろした牧瀬は、


あたしの鞄を持って奥に進んで行く。


ここまで来たからには、


着いて行くしかない。





「ねー、見つかったら怒られちゃうよ」





「心配ねーって」





「何を根拠に…」





牧瀬はすごく楽しそうで。


なぜかあたしも楽しくて。






「まだ直ってねーんだったら」





「え?」





校舎に近付いた時、


牧瀬は1階にある理科室の


1番端の窓に手をかけた。






「ほら、開いた」





得意気にそう言う牧瀬は、


先に入りあたしに手を差し出した。