「少々お待ちくださいね」





仕事モードに切り替え、


笑顔を見せて、カウンターの


奥に戻る。


悠太郎たちの席には


行かないようにしよう。


そんなことを考えながら、


仕事に集中した。


それから少し時間が経った頃。





「妃名子、これ8番テーブル」





「…え、嫌です」






8番テーブルって。


悠太郎と、あの失礼男の席だし。





「店長行って来て下さいよ」





「給料いらないの?」





「行かせていただきます…」





店長は、ことごとく性格が悪い。


給料を引き合いに出してくるなんて、


従わざるを得ないし。


仕方ない、と心を決め、


悠太郎たちの元に。


8番テーブルに近付くと、


まさかの悠太郎の姿がない。





「お待たせしました」





別に、失礼男だけなら、


緊張する必要もないし。


そう思ったあたしは、


無愛想な声でテーブルに


料理を置いた。


そして、立ち去ろうとした


あたしの腕を急に引っ張り。






「あれ?悠太郎は?って?」





そんなことを、耳元で囁いた。


見透かされたことよりも、


何よりも、


ふいなことだったから、


ドキドキした。


ふいだったから、


ドキドキしただけで。


別に、変な意味はなくて。






「は?何言って…」





「何、さっきの。初めましてとか言ってくれてんの?」






この男は、あたしを離すと、


文句を付けて来た。






「は、先にそっちが…」





「ごめんなさい、牧瀬様だろ」





「は、意味分かんない」






本当、酔っ払いは、たちが悪い。


すっごい腹立つ。






「うるさい、牧瀬。話しかけないで」





そう言って去る背中に聞こえて来た、


牧瀬の意地の悪い笑い声。


何なの、本当、最低。






「妃名子、何怒って…」





「別に、怒ってませんけど」





店長までうるさく感じ、


あたってしまう。


もう、あたしのばか。