「妃名子、今日バイト?」
「そうだよ」
帰りの教室。
帰る支度をしながら、
鳴海にそう尋ねられた時。
携帯にメールが入って来た。
【今日、会社の奴とお店に行きます。】
悠太郎からの、丁寧なメールだった。
いつもなぜかメールだけは、
敬語口調で送ってくる。
それも何だか可愛いけれど。
「鳴海、また明日ね」
「ん、ばいばい」
夜に悠太郎が来るってだけで、
ウキウキになる。
足取りがいつも以上に軽くなり、
顔もにやけ気味。
「お疲れ様でーす」
そう言って休憩室に入ると、
店長があたしを見て一言。
「何、お前のその顔」
と、失礼極まりないことを言った。
「何ですか、その言い方」
「にやにやして、気持ち悪い」
「最低すぎるでしょ、今の。取り消して」
とか言いながら、
今日は店長の嫌味を気にならない。
だって、悠太郎が来るから。
「お待たせしました」
休憩をはさみながら、
時間が過ぎ、気付けば夜の8時過ぎ。
そろそろかな、と思っていた時、
丁度、人が入って来て。
のれんをくぐって入って来たのは、
待っていた悠太郎。
そして。
そして。
そして…。
「妃名子、お疲れ」
「悠太郎、いらっしゃい…」
何で、この人が?
「紹介するよ。部下の牧瀬 蓮哉。一緒に仕事してる奴」
紹介されて、ひょっこり
顔を出すその男は。
「初めまして」
この間、助けてあげた、
茶髪の失礼男だった。
「は、初めまして…」
一応お客だから、ということで、
席に案内する。
「ご注文は?」
「俺ビール。蓮は?」
「あ、俺もビールで」
ビール2つですね。
とか言いつつ、頭の中は
全然回ってない。
え、何。
つまりこの失礼男は、
悠太郎の会社の奴ってことで。
部下で、仲良し?で。
あたしに失礼をした、
あの男ってことか。



