長身で甘めのルックスの彼は、


奥さんもいて、もうすぐ2歳になる


子どももいる。


私と彼の関係は、


世の中に認められることのない。


私が絶対しないって言ってた、


不倫関係。


私、吉川 妃名子が


彼と出会ったのは今から4ヵ月前。


まだ桜が咲いていた4月。





「ビールと枝豆ですね」






週に4回は入っている、


居酒屋さん。


居酒屋って、少し危ない


イメージもあったけど、


来る人たちはみんないい人だし、


店長もすごく優しいし、


一緒に働いてるみんなも


仲良くしてくれる。


高校に入ってすぐ始めたからか、


バイトの中でも結構長い方。


オープニングスタッフってこともあって、


今じゃ2年近く過ぎ、ベテランの域。





「妃名、これ持ってって」





店長に言われて、


ビールの中ジョッキを両手に


店内に戻る。






「失礼します」






生ビールでーす、なんて


言いながら畳に膝をついた時。


いつもならそんなことしないのに、


手元が狂ってしまい。


お客さんの足元に、


ビールをこぼしてしまった。






「ご、ごめんなさいっ…」





すいません、と何度も謝り、


いつもエプロンのポケットに


入れてあるおしぼりで、


ズボンを拭く。







「本当ごめんなさっ…、」





「全然大丈夫だから」





その人は優しく笑いながら、


一緒にズボンを拭いてくれる。






「あの、お金っ…」






そう言うと、目の前の人は


ふいに顔を上げて。


一瞬目が合って、


なぜか離せなくて。






「お客様、申し訳ございませんっ!」






そこに店長が入ってきて、


その人と合っていた目が離れた。