「千秋が、あたしに会いたいって…」
「うん、そうだと思ってた」
どうしよう。
まだ2人を会わせていないのに。
もうあたし、嬉しくなってる。
「着いたけど…」
ここからどうするか。
千秋さんがいる場所も分からないし。
「千秋、鳴海ちゃんのこと、ちゃんと想ってるから」
運転席で、ルームミラーを
覗きながら。
淡々と蓮哉がそう言った。
「あいつ、会社でも鳴海、鳴海ってうるせーんだ。知らないだろ?」
「千秋が…?」
そんな千秋さん、
想像出来ないんだけど。
「連れてく」
蓮哉は運転席から、
後部座席に回るとドアを開け、
鳴海の手を掴んだ。
「妃名、鍵かけてきて」
そう言うと、
蓮哉は鳴海を連れて
先にホテルの中に入って行く。
あたしも置いて行かれなように、
必死に走って追いかける。
ホテルに入って辺りを見渡して。
「すいません」
大きな声で話しているのが聞こえた。
千秋さんの声だ。
「蓮…」
背中が見えた蓮哉に声をかけると、
そこにはまだ鳴海がいて。
声を出すな、と口を手で塞がれた。
「千秋、あなた何を言ってるか分かってるの?」
着物を着た、
いかにも夫人って感じの女の人が、
千秋さんの頬を叩いた。
「分かってます。このお話をお受け出来ません」
「どうしてなの?訳を言ってごらんなさい」
お母さんにそう言われた千秋さんは。
「どうしても一緒にいたい人がいるんです」
はっきりと、そう言った。
「千秋!」
すると蓮哉は大きな声で千秋さんの名を
呼ぶと、1人で革靴を鳴らして、
前進していった。
「お久しぶりです」
「蓮哉さん、あなた…」
どうしてここに?
と言いたげなお母さんの目。
「千秋に用事があって」
「用事?」
「おい、千秋」
鳴海はあたしの隣で。
小さく肩を震わせて、
泣いている。
「お前、俺の電話に出ねえって、どういう神経してんだよ」
あたしは鳴海の肩を擦りながら、
目の前の蓮哉をただただ見つめる。
「連絡付かなかったら、どうしようかと思ったけど」
「蓮哉」
「仕方ねえから、お前の大事なもん、連れて来てやったぜ」
おいで、と。
鳴海に手招きする。
「鳴海」
「でも…」
行けない。
小声でそう言うと、
鳴海は後ずさりし始めた。
誰だってこんなの、
怖いよね。
「千秋!お前が行けよ!ばかか、お前」
蓮哉は、ホテル内に響く、
大きな声で叫ぶと。



