「恵莉香のせいだよな」




「それは…」




「恵莉香には申し訳ないけど。原因はあいつのせいでもあるんだろ?」




「だけどあれは…っ」





反論しようとするあたしを、


いいんだ、と止める。


あたしは何を言っても、


違う気がして、


何も言えなくなった。





「悠太郎、ごめんね」




「妃名子」





愛したことを後悔したりしない。


出会ったことを後悔したりしない。





「もう会わないようにする」





「……そうだね」





抱きしめ合うあたしたちは。


ずっと愛し合っていた。





「けど、ごめん」




「え?」




「愛してる、ごめん」




「…悠太郎、」






桜が咲いていた頃に出逢った。


あたしたちは、お互いを


求め合ったんだ。





「でも、妃名子には」




悲しそうな顔で。


笑いながら。





「幸せが似合う。そう思う」





蓮といることが幸せなら、


俺は何も言わない。


悠太郎はそう言った。


「ずっといようね」


いつか交わした約束は、


守られることはないけど。





「悠太郎、これ」





あたしは悠太郎に、


1枚の写真を渡した。


それは。





「あたしと悠太郎が繋がってた証」





初めて撮ったエコー写真。


先生が、相手にも見せろって、


2枚もくれたから。






「小さいな」





「米粒みたいでしょ」





くすくすと、笑うあたし。


寂しそうに、声を殺して泣く悠太郎。





「泣かないでよ」




「大事にする」





写真を胸ポケットにしまうと。


悠太郎は微笑んで。





「蓮が待ってる」





そう言った。





「もしまた会えたら、その時は笑っててほしい」




「うん」




「もしまた会えたら、蓮と3人でご飯行こう」




「分かった」




「もしまた会えたら…」





悠太郎は、悲しそうに微笑んで。


やっぱりいい。


小さく呟いた。






「幸せだった、ありがとう」




「あたしもだよ。愛してくれて、ありがとう」




貸してくれた上着を返す。


こんなにも、別れが切ないなんて。


こんなにも、苦しいなんて。


まだまだ未熟なあたしは、


知らなかったこと。


またな、と。


去って行く悠太郎の背中を


見送っていると。





「ばか、死にてぇのか」





そう言って、


蓮哉は病室にあった


あたしのストールを、


肩にかけてくれる。






「悠太郎が、また会えたら3人でご飯行こうって」




「どうせあのおっさん、すぐ行こうって言うから」





帰ろう。


蓮哉はあたしに手を差し出した。


繋いだ手は、


大きくて温かい男の人の手。






「急に出てってごめんね」





「どうせ出て行くと思ったから」





病室に着くと、


さっきまで使ってたベッドは、


綺麗に片付けられていて。





「今日何食べたい?」





そう優しく笑うお母さんがいた。





「あ、そうだ。お母さんご馳走作ってよ」




「ご馳走?」




「この前の蓮哉の誕生日、お祝いしてあげてないから」





そう言うとお母さんは、


嬉しそうに笑って。





「任せて。蓮くん、何が好き?」




「何でも食べます」




「あ、ケーキ、帰りに買って帰ろっか」






大丈夫。


蓮哉がいる。


いつか悠太郎に伝えられるといいな。


幸せだよって。


幸せですか、って。


あたしはこのまま、幸せになる。


悠太郎も幸せになって。


どうか、寂しがらないで。


どうか、1人で悩まないで。


それが、今のあたしの、


唯一のお願い事だから。