悠太郎だった。
「悠太郎…、何で…」
息を切らした悠太郎は、
辛そうにあたしの前に立ち。
息を整えながら。
「蓮に…、電話もらった」
そう言った。
「あ、蓮哉が…。そうなんだ」
「体、大丈夫か?」
悠太郎は不安そうな顔で、
あたしを見つめる。
勧めた丸椅子に、
座ろうとはしない。
「うん。全然平気だよ」
「心配だった」
ごめん。
そう謝りながら、
悠太郎を見つめる。
こうして悠太郎に会うと
思ってなかったから。
もう会うことはないと。
そう思ってたから。
「ずっと…電話出なくてごめんなさい」
謝らなきゃと思った。
この人は決して強い人じゃない。
弱音を言えない、強がりな人。
寂しくて寂しくて、たまらない人。
「妃名子がいなくなったあの日から、俺は何も進んでない」
「うん…ごめん」
「妃名子」
嫌いになったんじゃない。
悠太郎のことは、
すごく好きだった。
この人しかいないって、
そう思ってた。
本当にそう、思ってた。
「妃名子に会いたかった」
「悠太郎…」
目の前の彼が悲痛に叫んでる。
そんな悠太郎を、
あたしはもう抱きしめて
あげられない。
「妃名子、俺。どう考えても、妃名子がいないのは、無理だ」
ねぇ、赤ちゃん。
あなたと血の繋がったお父さんは、
こんなにもあたしを愛してくれたよ。
こんなにも、優しい、いい人だよ。
「もう1回、俺の所に来てほしい」
そこに誰かが入って来て。
顔を覗かせたのは、
飲み物を持った蓮哉だった。
「木嶋さん、来てもらってすいません」
悠太郎は蓮哉から、
缶コーヒーを受け取った。
渡したそれは、
悠太郎の好きなブラックコーヒー。
「木嶋さん」
蓮哉は悠太郎に頭を深々を下げ。
「妃名子のこと、守れませんでした」
すいません、と。
プライドの高い蓮哉が、
2回も頭を下げている。
それを見て、
あたしだけじゃなく、
悠太郎も驚いているようで。
「蓮、頭上げろ」
「けど、俺。こいつのこと守りたいです」
悠太郎に謝らないと
いけないのは、あたしだけなのに。
蓮哉は謝る必要ないのに。
「妃名子を、命かけて、守ります」
好きになって、すいません。
蓮哉のその言葉に、
涙が込み上げた。
そう思ってくれてたんだね。
蓮哉も、辛かったのかな。
「蓮…」
悠太郎の声が病室に
響いた時。
またドアが開いて。
入って来たのは、
夕方に来ると言っていたお母さん。



