「妃名子、自分が悪いんじゃない」
真っ直ぐ見つめる蓮哉の目が、
あたしの心を落ち着かせてくれる。
悪くない、なんて。
思ってもいいのかな。
「少し落ち着いた?」
「うん、大丈夫」
時間が経つに連れて、
もういないんだってことに
実感が沸いて来て。
そういう運命だったって、
割り切らないと、って。
もう会えないんだって。
理解しないと、って。
「妃名」
「なーに?」
「今度は、俺の子産めよ」
突然そんなことを言うもんだから。
また嬉しくて、涙が出て。
だってそれ、プロポーズじゃん。
「産んでもいいの?」
「産みてーだろ?俺の子」
この先も一緒だって。
そう言われてるようで、
何だか幸せな気持ちになる。
「でも、少し元気になってよかった」
「うん、不思議と元気」
悲しいのは間違いない。
だけど、きっと。
「あたし、心のどこかでほっとしてるのかもしれない」
不安だった。
産みたいけど、
育てられるのかなって。
あたしでいいのかなって。
「それでいいんじゃねーの」
ほっとするのは、普通だろ。
ぶっきらぼうにそう言う蓮哉の
言葉に、少し胸を撫で下ろす。
「眠くなってきた」
「少し寝ろよ。寝るまでここにいるから」
蓮哉はあたしの手を握り、
優しく笑ってくれる。
その笑顔に心が落ち着く。
言われた通り目を瞑り、
眠りについた。
寝るまでずっと、
産まれてくるはずだった
赤ちゃんに謝り続けた。
ごめんね、赤ちゃん。
無事に産んであげられなくてごめん。
何も考えられなくてごめんね。
でもまたいつか。
あたしのお腹に戻って来てね。
その時は元気に産声あげて、
あなたと出会わせてね。
「吉川さん終わりましたよ~」
お昼に看護師さんに起こされ、
車いすで診察室に向かった。
1時間もかからないうちに終わり、
再び病室に戻ることに。
「旦那様、飲み物買いに行くって言って、さっき出て行かれましたよ」
「あ、そうですか」
すれ違った看護師さんにそう言われ、
旦那様という言葉に反応する。
そうだよね。
何も言わなかったら、
妊娠してたあたしについてる
男の人なんだから、
旦那様なんて言われても
おかしくないよね。
…旦那様か、悪くないな。
「もう少ししたら呼びに来ますね」
「ありがとうございました」
あたしを病室に返すと、
看護師さんは車いすを持って
出て行った。
普通に歩けるのに、
車いすなんて大げさだな。
「蓮哉、遅いな…」
そう思っていた時。
勢いよくドアが開いて。
「蓮、おそっ…」
「妃名子!」
入って来たのは、
蓮哉じゃなくて。



