「お母さん、ごめんなさい」
まだ外は真っ暗。
きっとお母さんは病院から
連絡が入って、
急いで飛び起きて
来てくれたんだよね。
「妃名子」
「はい」
お母さんはベッドの横の
丸椅子に腰をかけると。
「無事でよかった」
そう言って、
あたしを抱きしめてくれた。
お母さんは、
温かかった。
「黙ってて…っ、ごめん、なさいっ」
「ちゃんと話しなさい」
お母さんはあたしの目を見て、
全部話を聞いてくれた。
悠太郎と出会ったこと。
不倫をしていたこと。
家族を壊しちゃいけないと思ったこと。
蓮哉と出会ったこと。
好きになってしまったこと。
そして、妊娠が分かったこと。
その子どもが、
蓮哉じゃなくて悠太郎の子ども
だってこと。
それを全部言うと。
お母さんはあたしの頬を
軽く叩き。
「辛かったでしょ、1人で溜め込んで」
そんな優しい言葉をかけてくれた。
お母さんは目に涙を溜めて、
気付いてやれなくてごめんね、と
謝ってくれた。
「最低なこと、したね、あたし」
「最低なこと?」
「不倫なんて。お父さんと同じこと、してる」
そう言うと。
お母さんは賛同するわけでもなく、
怒るわけでもなく。
「あなたのお父さんは立派な人よ」
悪く思わないであげてって。
そんなことを言われた。
「よく頑張ったね、妃名子」
「頑張ってなんか…」
「お母さん、蓮くんに謝らないとね」
秋祭りの時の彼でしょ?
そう言うから、頷いて見せると、
急に自分の姿を気にし始めた。
「蓮哉…」
外に出た蓮哉を探そうと、
ドアを開けると、
すぐそこのイスに
座って待っててくれた。
そして一緒に中に入ると。
「何も知らずに、失礼をして、ごめんなさい」
お母さんは蓮哉に頭を下げた。
親ってすごいなって。
すごく嬉しかった。
すると蓮哉も頭を下げ。
「俺が妃名子さんを幸せにします」
絶対傷付けません。
そう言って、蓮哉は頭を上げることなく、
泣いてくれた。
あたしも嬉しくて泣いた。
あたしたち3人は、
しばらく泣きべそをかきながら
その場に佇んだ。
「お母さん、仕事があるから」
また来るわね。
そう言い残し、蓮哉に
よろしくと言って、
お母さんは病室を出て行った。
「ごめんね、お母さん何も知らなくて」
「いい。そんだけ、妃名のことが好きって、痛いほど伝わった」
蓮哉は少し笑って、
さっきまでお母さんが座っていた
丸イスに腰を掛ける。
「あたし、罰が当たったんだよ」
受け入れられない。
お腹に赤ちゃんがいないこと。
「悠太郎の家庭壊しそうになって。自分だけ幸せになろうとしてたから」
「違う。それは違う、妃名」
「違わないよ」
あたしがしてきたことの、
報いを受けたんだよね。
赤ちゃんが、
教えてくれたの?



