「目、覚めましたか」




「先生っ…あの、」




あたしは慌てて起き上がり、


先生の白衣を掴む。


先生はあたしと真逆で、


至って冷静。





「吉川さん、落ち着いて」




「赤ちゃんは…?お腹の…赤ちゃん、」




「残念ですが、流産してしまいました」





先生は辛そうに、


言葉を発した。


その一言を聞いて、


理解出来ずに、黙り込むあたし。





「え…何て…」




「もうお腹にいないんです」





あたしの、お腹に、


赤ちゃんがいない。


今感じる違和感は、


いないからか、痛いからか。





「本当…ですか」




「本当です」





泣きたいんじゃない。


だけど、目からは自然と、


涙がこぼれる。


どうして。何で。


赤ちゃんが、いなくなっちゃうの。





「吉川さん、体を冷やしたり、何かにぶつけたりしませんでしたか?」




「冷やしたり…ぶつけたり…」





真っ白な頭で、


必死に考える。


心当たりは、1つだけ。


さっきイスから落ちたこと。


それしかない。





「また後で診察に来ますので」





失礼します、と、


先生は頭を下げて病室を


出て行った。





「どうしよう…蓮哉、ねえ、赤ちゃん…」




「落ち着け、妃名」





混乱しているあたしを、


必死に抱きしめてくれる。


蓮哉の腕にしがみ付きながら、


ただ泣き喚くあたし。


すると勢いよくドアが開いて。





「妃名子!」





勢いよく入って来たのは、


髪をくしゃくしゃにした、


お母さん。





「お母さん…」





泣いたのか、目が腫れていて。


服も髪も整えないまま、


家から来たようで。


息も整えないまま、


蓮哉の顔を見ると。


無言で近付き。





「ふざけないで!」





と、蓮哉の頬を1発殴った。





「お母さん、違うっ…」




「何が違うの!こんな男!殴っても気が済まないわよ!」






子どもの父親だと勘違いしてるのか、


お母さんは蓮哉を手や鞄で、


何度も殴る。


蓮哉は何も言わず受け入れて。


何度も何度も頭を下げてくれている。





「申し訳ございません」




「何であんたなんかっ…」




「お母さん!」





我慢出来なくなったあたしは、


腕に繋がっていた点滴を


引きちぎって、


お母さんと蓮哉の間に入った。





「やめて!」




「妃名、いいから」




「よくない!違うの!お母さん!」





涙を流すあたしを見て、


お母さんは動きを止めた。


あたしの腕からは、


針で傷付いたのか、


少し血が出ている。





「妃名子…ごめん」




「ちょっと、外で待ってて」





蓮哉にそう言うと、


蓮哉はお母さんにもう1度


頭を下げ、病室を出て行った。