「蓮哉、仕事は?」
「とっくに終わらせて来た」
蓮哉の家の駐車場に車を停め、
家に向かって先に歩く蓮哉。
あたしは後ろを着いて行くだけ。
「電話来た時はびっくりした」
「え?」
家の鍵を開けながら。
「木嶋さんから、電話があったから」
「悠太郎から…?」
家の中に入ると、
蓮哉は少しぐったりして、
ソファに座った。
「恵莉香が妃名子に会おうとしてる。会わせないでくれって」
「そう、だったんだ…」
だから、蓮哉、
慌てた様子だったんだ。
「痛たた…」
さっきから気付かないようにしてた。
「ちょっとトイレ行くね」
イスから落ちた時から、
少しお腹が痛いような気がしてて。
だけど気のせいだって思い込んで。
痛いというか、張っているというか。
「妃名、何か飲む?」
「うーん、飲む」
トイレでも普通に出るし、
何ともない。
気にし出したら、
もう止まらないと思ったから。
「ココアでいい?」
「うん、ありがと」
トイレから出て、
マグカップをもらう。
気を紛らそうとするけど、
気のせいだと思い込もうとしたけど。
「痛い…」
急にお腹が痛くなって。
「蓮…どうしよ…」
「妃名?!」
さっき済ませたはずなのに、
下半身に何かが伝った。
制服のスカートの下から、
赤い血が、流れている。
「痛い…お腹…」
「妃名、待て。今病院連れてくからっ…」
蓮哉はあたしを抱えると、
急いで車に乗り込んで、
病院に電話をかけてくれた。
助手席に座って、
額に汗を掻きながら、
お腹の痛みを我慢しながら、
意識が薄れていく。
しっかりしろ、と言う蓮哉の声と。
気のせいか、看護師さんや先生の、
大丈夫ですよ、の声が聞こえる気がした。
意識が遠のく寸前、
目の前が明るくなって。
それから、意識を手放した。
この感覚が何か分からない。
どうしてお腹が痛いのか、とか。
何で血が出てるのか、とか。
何であたしが、
泣いているのか、とか。
「…妃名?」
気が付いたのは、
すぐだった気がした。
目をゆっくり開けると、
天井には変な模様があって、
あたしは制服ではなくて、
知らない服を着ていた。
「妃名、気が付いたか?」
はっきりした意識の中で、
分かったのは。
今、病院のベッドに寝ていて、
さっきまで夕方だったのに、
いつの間にか夜中で、
あと隣で蓮哉が手を握ってくれていること。
「蓮、哉…」
「よかった」
さっきの痛みがなくなっていて、
ほっと安心した瞬間。
「赤ちゃん…」
小さな違和感に気付いた。
何かがない。
そう感じた。
「蓮哉…赤ちゃんは…?」
「妃名…」
すると、病室のドアが開き、
入って来たのは、
毎回診察をしてくれていた
先生だった。



