めぐりあい(仮)






「蓮哉くん、久しぶりね」




「どうも」




普通じゃない恵莉香さんは、


蓮哉を見て口元を緩ませた。


この状況で、笑う彼女は、


相当追い込まれている。





「蓮哉くんも騙されてるのね」




「は?」




「この子、妊娠してるのよ」




「知ってます」




「誰の子か知ってるの?」





ねえ、蓮哉。


本当にごめんね。


嫌な思い、させるつもりは、


なかったんだよ。





「知ってます」




「悠くんの子ど…」




「俺の子です。知ってます」





蓮哉の背中を見て、


その声を聞いて、


安心して泣いた。


俺の子、だと言ってくれた、


蓮哉が愛しくて。






「帰ってくれませんか」




「蓮哉くん、その子はあなたの子じゃ…」




「帰れって言ってんだろ」





恵莉香さんは何も言わず、


自分の鞄を持って立ち去った。


あたしはその姿を見て、


何度も謝った。


恵莉香さんごめんなさい。


幸せを壊すつもりはなかった。


邪魔をするつもりじゃなかった。


ただ愛してしまっただけなの。


悠太郎が好きだった。


それだけだったの。






「吉川、大丈夫か?」





朝陽はそう言って、


あたしの顔を覗き込んだ。


鳴海は泣きながらあたしの


制服をおしぼりで拭いている。


そんな2人の顔も、


蓮哉の顔すらも見れなくて。





「だから、会うなって、言ったのに…」





鳴海は嗚咽と一緒に、


言葉を発する。


あたしは申し訳なくて、


ごめんとしか言えなくて。





「吉川、立てるか?」




朝陽は必死に気を遣ってくれる。


そんな中、蓮哉は動こうともしない。




「妃名子、大丈夫だよ。もう終わったからね」




「そうだ、吉川。もう大丈夫だ」




そう言う2人に。





「お前ら、ばかじゃねーの?」





蓮哉はそう言った。


それと同時にあたしに近寄り、


背中と膝に手を回し、


抱きかかえると。





「こいつが悪いんだろ、みんな止めたんだから」




「蓮哉さん…」




「連れて帰るわ、こいつ」




蓮哉は自分の財布から、


万札を鳴海に渡すと、


あたしを抱えたまま、


お店の外に向かった。


追いかけるように、


朝陽があたしの鞄を


持ってきてくれる。





「吉川、もう絶対会うなよ」




「分かったよ、朝陽」





助手席に座ると、


朝陽に頬をつねられる。


あたしは笑って見せると、


少しホッとしたのか、


朝陽も笑ってくれた。





「じゃあ、またね」




「気を付けて」





朝陽のその言葉を聞いて、


蓮哉は車を走らせた。


車内は少し重い空気が流れる。


イラついているのか、


蓮哉はハンドルを指で


トントンと叩いていて。





「ごめんね、蓮哉」




「別に」




「言うこと聞かなくて、ごめん」




「いいって」




「会わないと、って思ったの」





そう言うと、


蓮哉は道路の端に車を停め。


ハザードを付けて。





「心配させんじゃねーよ、まじで」





そう言いながら、


あたしを抱きしめた。





「まじでお前、ぶん殴るぞ」




「ごめん」




「少しくらい、言うこと聞けよ」





こんなに想われてる、って。


実感している自分がいた。


蓮哉の目から


涙は出てないけれど、


心が泣いてる気がした。