「私が、怪しいと思ったきっかけです」
そう言って差し出して来たのは、
あたしの鞄にあった、
母子手帳。
「あなたが病院から出て来る所を、偶然発見してね」
見られてる、なんて、
迂闊だった。
誰もいない所、って。
探したはずなのに。
「悠くんの家に行った時、2人でいたわよね?」
「…はい」
「あなたは蓮哉くんと3人でご飯でも、と言ってたけど」
恵莉香さんは、
少し笑いながら。
「あなたたちと会う前、蓮哉くんと千秋くんに会ったの」
偶然ね。
それを聞いて、言葉が出なくなった。
考えていなかった。
精一杯だった、あの時は。
「今から2人で残業のために、食事を買いに行くって、言ってたわ」
「残業…」
「だからね、少しおかしいと思ったのよ」
他の人でも、
完璧嘘だって分かること。
そんなの知らないあたしは、
上手く騙せたと、安心しきっていた。
「子ども、いるのね」
「はい」
「誰の子ども?」
そう聞かれ、声が出なくなった。
悠太郎の子ども、だなんて、
言えなくなった。
ここに来るまでのあたしは、
すごく強気で、
罵る勢いだったのに。
「嘘…よね、そんなの」
認めも、否定もしないあたしを見て。
恵莉香さんは。
「ふざけないでよ…」
いきなり立ち上がると、
さっき運ばれてきたコーヒーを。
あたしめがけて、かけた。
熱いコーヒーが顔を中心にかかり、
更にあたしの目の前にあった、
お冷さえもかけられた。
そして恵莉香さんは怒りが収まらないのか。
あたしの髪を引っ張り上げる。
「い、痛いっ…」
「あなたって最低ね!そんな子だと思わなかったわ!」
そう言うと、
髪を離すと同時に、
あたしの体を強く押した。
あたしは熱さと痛さと怖さで、
どうすることも出来ず、
バランスを崩し。
「痛っ……」
イスから地面へ、
落ちてしまった。
「あなたが幸せになるなんて、許さないわ」
「恵莉香さん…」
イスから落ちた瞬間、
頭が真っ白になって、
動くことも逃げることも
出来なくなった。
頭に過ぎるのは、
鳴海や朝陽が、
蓮哉が、悠太郎が、
帰れと、待てと言ったこと。
ただ、それだけだった。
「妃名!」
「妃名子!」
そこへ、勢いよく入って来た人が、
あたしの名前を呼んだ。
朝陽はあたしに駆け寄り、
鳴海はおしぼりで顔などを拭き、
蓮哉はあたしと恵莉香さんを
阻むように間に立ちはだかった。



