『やっと繋がった…』
表示されたのが、
悠太郎の名前で。
出た瞬間、
しまったと思った。
『妃名子、今どこ?』
「家だよ」
『嘘付くなよ!恵莉香と会うんだろ!どこ?』
嘘を付くも、すぐバレ、
もう何も言えなくなった。
秘密。
そう答えると。
『今、恵莉香、普通じゃないから』
「え?」
『とにかく会わないでほしい』
「ごめん、悠太郎…」
そのお願いは聞けそうにない。
だって、もう。
「待たせてごめんなさい、妃名子さん」
「恵莉香さん…」
目の前に、恵莉香さんがいるから。
『妃名子…、もう恵莉香いるのか?』
「うん」
電話の相手が悠太郎だと、
気付かれないように、
何も言わず、ただ頷いた。
『とりあえず、逃げて。いいから、頼むか…』
「じゃあ、また」
あたしは言葉の途中で、
電話を切った。
「寒いわね、中で待ってたらよかったのに」
「いえ、さっき着いたばかりなので…」
悠太郎がさっき言っていた、
恵莉香さんが今普通じゃない、
という言葉を思い出す。
いつも綺麗で、笑顔で笑っていて、
幸せそうな奥様だったのに。
今日の恵莉香さんは、
泣き腫らした目をしていて、
笑顔に憎しみがこもっているような、
そんな気がした。
「ご注文何にされますか?」
「ホットコーヒーください」
「あたしは、いいです」
この期に及んで、
あたしは帰りたくて仕方なかった。
さっきまで、会うしかない。
そう思っていた。
だけど、会ってみて、
みんなの心配が分かった気がする。
本当に悠太郎の言った通り、
今日の恵莉香さんは普通じゃない。
「お呼び出しして、ごめんなさいね、妃名子さん」
「あ、いえ…」
恵莉香さんは、笑顔だ。
笑ってあたしを見ている。
だけど、目が笑っていない。
「単刀直入にお聞きしますけど」
「はい…」
「悠くんとは、どれくらい関係を持ったのかしら?」
予想していた通りだ。
悠太郎との関係について、
あたしを問い詰めに来たのだ。
「どれくらい…って」
「悠くんと、関係持ってたのよね?」
「…はい、すいません」
隠しても、隠せない。
そう思ったあたしは、
すぐに謝った。
そんなあたしを見て。
「謝って済むと思ってるの?」
恵莉香さんらしくない、
低い声でそう言うと。
恵莉香さんは突然あたしの鞄を取り、
中を探り始めた。
「な、何するんですかっ…」
抵抗しようと少し腰を上げる。
同時に恵莉香さんは動きをやめ、
鞄の中からある物を取り出した。



