「わ、かりました」
『はい。では、また』
ぷつり、と切れたその電話は、
何の意味があるのか、
全く予想が出来ず。
「何だって?」
「夕方、会ってくれって」
変なことが頭を過ぎる。
もしかして、
悠太郎との関係が
ばれたんじゃないかって。
「お前、そんなの行く必要ねーぞ」
「そうだよ。何で今更…」
よりにもよって、
今電話がかかってくることに、
少しばかり動揺を隠せない。
会わなくてもいい。
会う必要はない。
そうは思うけれど。
「でも…」
「でもじゃねーよ!」
朝陽は目の色を変えて、
あたしを止めようとする。
分かってる。
きっと2人も嫌な予感が
してるんだと思う。
「妃名子、蓮哉さんも同じこと、言うと思うよ?」
「絶対やめとけって言うって。何か起きてからじゃおせーんだから!」
2人の言葉を受け止めようと
色々考えるけれど。
もしここで会わないとして。
恵莉香さんが、悠太郎とのことを
問い詰めたいのだとしたら。
それはもう、関係がありましたって、
言っているようなもので。
もし否定をするのなら、
会って否定しないと通じない。
もちろん、否定しても
通じるかは分からないけど。
「ちょっと考える」
あたしのその一言に、
信じられないと言いたそうな
朝陽の目。
「お前、1人の体じゃねーんだぞ?」
「分かってる」
「そうだよ、妃名子。ちゃんと考えて」
こんなにあたしのことを
考えて言ってくれている。
そんな2人の言葉に対して、
何も分からないくせに、と
思っている自分がいた。
「ちゃんと、考えるから」
そう答えるので、精一杯。
あたしの中で、
会わないという選択肢はなかった。
それから授業に戻ったけど、
もう授業どころじゃなくて。
何て言われるんだろうとか。
何で今更なんだろうとか。
そんなことしか、
頭に思い浮かばない。
「吉川!」
よかった、まだいた…と、
息を切らして教室に飛び込んでくる朝陽。
みんながバラバラと帰って行く中、
あたしはまだ動けずその場で
じっと一点を見つめていた。
「もう帰るんだろ?送ってく」
「さっきからそう言ってんだけど、妃名子動かなくて」
2人はこんなにあたしを
心配してくれている。
「ね、鳴海、朝陽」
あたしは小さな声で。
「2人が思っているようなことはないよ」
そう言った。
だって、そうじゃない。
恵莉香さんだって大人だし、
事実確認をしたいだけだと思うし。
第一、もう終わってる関係なんだから、
それからどうするかは、
悠太郎と恵莉香さんの問題であって。
「きっと話し合うだけ」
むしろ、関係を聞きたいのではなく、
今度どこかへ行こうとか、
そんな話かもしれないし。



