「腹減った」




「だったら帰ったらいいじゃん」





待ち始めて1時間。


一向に蓮哉が現れる気配がなく、


ただ立ち尽くすばかり。





「いつ帰ってくんだろうな」




「さあ、分かんない」





早く会いたい。


会って、プレゼントを渡したい。


そんなことを考えていると、


勢いよく階段を上がってくる


足音が聞こえた。






「蓮哉かも」





思わずそう口にした時。


向こうから見えた人影が。





「妃名…」





蓮哉だと分かった瞬間、


少しだけ痛くなる鼻の奥。


久しぶりに会えた。


会いたかった。





「蓮哉…」





なぜか蓮哉は息を切らしていて。


理由を知らないあたしは、


何も考えずに駆け寄った。





「今日は早かったね」




「別に。これから出るんだよ」




「……そっか」





何も言えなかった。


もう、言っちゃいけない。


蓮哉には蓮哉の生活がある。


あたしは何も言えない。





「何でここにいんだよ」




「あ、今日蓮哉の誕生日だって聞いてね」





あたしは手に持っていた紙袋を


蓮哉に差し出し。


おめでとうと言った。






「いらねーよ」





だけど蓮哉はそう言って、


受け取ることすら


しなかった。






「…ごめん」





泣きそう。


でも泣かない。


強くなる。


あたしは、強くなるんだ。






「ここ、かけとくね」





あたしは蓮哉の家のドアノブに


紙袋を引っかけると、


笑顔でもう1度おめでとうと言った。






「帰れ」




「あ、うん。そうする」





寂しいなんて。


好きだなんて。


言えないんだな。


本当は悠太郎のことも、


ちゃんと報告したいのに。


別れたんだよって。


あなたに会いに来たんだよって。





「あいつ誰」




「あ、えっと」





向こうにいる朝陽を見て、


蓮哉は顔を歪めた。






「学校の友だちで、さっきたまたま会って」




「お前、軽い女だな」





蓮哉の口から出た言葉が。


あたしの目の前を真っ白にした。


あたしが、軽い女。


でも蓮哉から見たら、


そう見えるのかもしれない。


だって蓮哉は、


あたしの気持ちは勘違いだって。


悠太郎に冷たくされたから、


寂しさのあまりの感情だって。


そう思ってるに違いないんだから。





「そ、そうだね…」




あはは…、と笑うあたしの


後ろから。





「何も知らないくせに、勝手なこと言わないで下さい」





朝陽が大きな声でそう言った。


それはまるで、


あたしの心の中を


現したような。


そんな言葉。





「あ?」




「吉川は軽い女じゃありません」





朝陽はあたしたちに近付いて。


蓮哉の目を見て、


必死に訴えてくれている。