「じゃあ、またね」




普通に手を振った。


いつも通りばいばいして、


それからどこかに買い物に


行こうかな。


あたしはいけないと分かっていても、


どうしても蓮哉に会いたい。


会って一言だけ、


おめでとうって言いたい。


それだけでいい。




「あ、妃名子」




いつもなら何も言わない鳴海が。





「カイロと温かい飲み物持って行きなよ」




そう言った。


これも、と、


自分のひざ掛けをあたしに


投げ渡した。





「会ったらすぐ帰ること。約束だからね」





何かあったらすぐ連絡して。


鳴海の言葉に驚きながらも、


あたしは急いで教室を出た。


分かってたのかな、鳴海は。


あたしが蓮哉に会いに行くこと。


分かってて、教えてくれたのかな。





「何買おうかな」





街に出ると、


色んなお店を回った。


アクセサリーを買おうにも、


何が似合うのか分かんないし。


服を買うにも、


そんなに見たことないから、


どんな服が良いのか分かんないし。


その時、ふと目に留まったもの。





「ネクタイ…」





いつもスーツを着ている蓮哉だから。


ネクタイがいいんじゃないかと思った。


似合いそうな色を見つけて、


プレゼント用に包んでもらう。


いつも無地のネクタイをつけてるから、


少し流行りの柄があるものにした。


きっと似合う。


そう確信した。





「どうしようかな…」





案外早く終わった買い物で、


時間はまだ夕方の5時過ぎ。


きっと今頃蓮哉は仕事終わりで、


まだ帰って来るわけがない。





「いない方がいいかな」





そう思いながら、


蓮哉のお家を目の前にした時。





「吉川!」





チリンチリンと、


自転車のベルを音がして。


振り返るとそこには、


急いで自転車を漕いでいる


朝陽がいた。





「何?またストーカー?」




「伊藤に聞いて、慌てて来たんだよ」





蓮哉の家の前で朝陽は


自転車を止めると、


降りてあたしの方へ向かって来る。


朝陽はあたしをじっと見て。





「今すぐ帰れ。送ってくから」




「は?何で?」




「体冷えるだろ?それに、またいつ帰って来るか分かんねえし」





もっともなことを言う朝陽。


だけど意地を張ったあたしは。





「嫌だ、帰らない」





そう返してしまった。


別に帰りたくない訳じゃない。


だけどせめて、一言だけ。


おめでとうだけ。






「帰るぞ」




「嫌だって言ってるでしょ」





しつこい、と睨みをきかせると。


朝陽は溜息をついて。





「じゃあ、俺も一緒に待つ」




呆れた一言を言った。





「勝手にすれば」





どうせほっとけば勝手に帰るだろう。


あたしはそう思って、


階段を上がった。


見慣れた蓮哉の部屋の前へ行き、


さっき買ったカイロを擦る。





「ほら」





勝手にすれば、と言われ、


勝手に着いて来た朝陽は、


自分の制服の上着を


あたしの肩にかけた。






「いいよ。朝陽が寒いでしょ?」




「吉川に何かあったら困るから」




「すぐ…帰ってね」




本当は少し寒かった。


だけど、何も体を温める術が


なかったから。


本当は正直ありがたい。