俺は注文したブレンドコーヒーを一口飲んだ。


苦い。


何度飲んでも、コーヒーの良さってやつがわからない。


ビールもそうだが、どうして歳を重ねていくと、苦いものを求めるようになるのだろうか。


結局、俺の人生は子供の味覚のまま終わってしまうんだな、とふと思う。


「どうする、葛城君。また金を払って未来を変えるか?」


男が白い陶器の灰皿に灰を落としながら言った。


「いや、もう払う金がおまえには残っていないか」


「ああ。あんたに全財産を渡してしまったからな」


俺は昨日、全財産を男に渡した。


お金もなく、これからどうやって生きていくかを考えていた矢先、“殺される”と宣告された。


ある意味、いいタイミングだったのかもしれない。