「さっきの慰謝料は、ファーストキスでいいよ」
彼の言葉と同時に唇に温かい感触が伝わった。
甘くて頭が痺れそうになる香水の匂い。
体が硬直してしまったかのように、指一本動かせない。
自分がキスしていることが到底信じられない。
ただ、唇に感じる感触はリアルで現実だということを思い知らされた。
唇が離されると、あたしはズルズルとその場に座り込む。
「……――じゃあね、ごちそうさま」
彼はあたしの頭をポンッと優しく叩くと、柔らかい笑みを残してその場を立ち去った。
唇に残る甘くて柔らかい感触。
「な、何なのよ……あいつ……」
あたしは口を押えたまま、しばらくその場で呆然とすることしかできなかった。