文久3年7月
私は、故郷の里から京まで、長い旅をしてきた。
久しぶりに、深い眠りにつき、次に起きた時は、目の前に知らない天井の木目が広がっていた。
「ん……」
ここは、どこだろう……
私、どのくらい眠っていたのかな……
ボーっとしていると、隣から声が聞こえてきた。
「目が覚めたか」
「え……」
声のした方へ顔を向けてみると、そこには昨日助けてくれた男の人が座っていた。
「あなたは、昨日の……」
私は、ゆっくりと体を起こし、彼に頭を下げた。
「昨夜は、助けていただきありがとうございます」
「いや、礼を言われるほどのことでは……」
「あの、失礼ですが、お名前は?」
「斎藤一」
斎藤さん。
それが、私の恩人の名前らしい。
「お前の名前は?」
「あ、はい。
遠野杏子、といいます」