でも、どうしようもないことだ。しつこくつきまとって嫌われるよりも、せめてこれまでのことを感謝されたままでいよう。

 彼が何かするたび、食事や水や、ちょっとしたものを彼女のもとに運んでいくたび、無邪気に目を輝かせて、ありがとう、と言ってくれた少女の顔が思い浮かんで、ロクサムはまた息が止まりそうになる。
 ロクサムが思いつく楽しみなど、大したことではなかったのに、ほんのちょっとしたことでも、少女はとても嬉しそうな顔をした。
 道端で摘んできた小さな花をたった1輪手渡すだけでも、綺麗、と言って大げさなぐらい少女は喜んでくれた。
 けれどもこれからは、そんなささやかな驚きを彼女に届けて喜ばれることも、もうない。これまでは巣から落ちたヒナ鳥の世話をしていただけだと思って、巣立ちを喜び、割りきらなければならない。

 ところが、そんな彼のあきらめの境地になどお構いなく。
 少女はその日のうちに、自分からロクサムを追いかけてきたのだった。
 少女が歩けるようになって真っ先にしたことは、可憐な花を見ることでも新しい友だちを見つけに行くことでもなく、ロクサムを探すことだった。

 全く予想もしていなかったロクサムは戸惑って、うじうじと考えつづけていたことをそのまま少女にぶつけてしまい、少女を怒らせた。
「あたしたち、友だちじゃなかったの?」
 そう問い返す少女の声は心底傷ついている様子で、ロクサムをさらに動揺させた。