「いつもキャンキャン吠えてくる子犬が、水たまりにはまってじたばたしてたら助けるだろ。噛みつかれても、大したダメージじゃないよ」
「その言い方、なんかすごいむかつく」
「どれだけむかついても構わないから、空中ブランコは思いとどまってくれ」
「それは嫌」
「どうして?」
「やるって決めた」
「だから、なぜ?」
「わかんない」
 ルビーは目を伏せた。
「自分でもわかんないの」

 ブランコ乗りは腕組みをして、しばらく無言で考えていたが、顔を上げて聞いていた。
「今から行ってみる? 舞台の大天井(おおてんじょう)へ。実際に登ってみたら、きっと下から見るよりずっと高く感じると思うよ」
「いいの?」
 目を輝かせ、ぱっと顔を上げるルビーを、ブランコ乗りは、やっぱり困ったような顔をして見返した。