碧い人魚の海

 大抵の人の反応は、「綺麗、でも可哀想」ぐらいで、もの珍しい人魚の姿そのものを見ることだけで満足して帰っていく。ルビーが伝説の海の生き物であれ、単に生きていくのに不自由に生まれついただけの人間であれ、自分の目を楽しませてくれるならば、南の国の人々にとってはどちらでもよいと思われているみたいだった。
 舞姫にとってもルビーは理解できない海の生き物ではなく、不自由な姿を持って生まれた可哀想な女の子に見えていたらしかった。

 遅い夕食会が終わってすぐ、ナイフ投げは、シーツでくるんだ干しわらの寝床をルビーの個室から持ち出して、舞姫の部屋に運び込んでくれた。
 舞姫がくつろいでいる横で、ルビーはシーツの上に足を伸ばし、部屋の壁にもたれて座った。
 疲れていたから本当は横になりたかったけれども、さっきナイフ投げが来たときに、あとでまた顔を出すと言っていたから、眠ってしまうわけにはいかなかった。
 相談がある。そう、ナイフ投げは言っていた。

 ルビーはシーツの上に伸ばした自分の脚を、まじまじと観察した。尻尾に大きな怪我をしてからは初めての変身だったが、消えてなくなることのない尻尾の醜い傷痕は、見たところ人間の姿には全く投影されていない。すんなりとした両脚は以前のままに滑らかに白く、擦り傷一つなかった。

「ねえ、人魚ちゃん」
 舞姫が、話しかけてきた。
「その足のアンクレット、以前尻尾にはめてたやつと同じやつなの? 前はそんな色じゃなかったよね」
 顔をあげると、舞姫は心配そうな顔で、じっとルビーを見ていた。

「男どもが来る前に聞いちゃっていいかな。ぶっちゃけあの奥さまに何かされたの? おととい迎えに行ったときあんたが泣いてたって、アートが──ブランコ乗りが言ってたんだ」
 ブランコ乗りをアートと呼んだ舞姫は、ルビーのために言い直した。

「貴族連中ってのは変態が多いからさ。ただ、あたしが見たところじゃ、これまであの奥さまはそんな感じじゃなかったんだけどね。金離れがいいし、あたしらへのもてなし方もスマートだし、わがままは言わないし、ずっといい客だった。まあ、屋敷に残った男どもと何をどうしてるかなんて具体的な話を教えてもらってたわけじゃなかったけどさ。ねえ人魚、やっぱり、あいつは間に合わなかったのかい?」