碧い人魚の海

 厩に馬は4頭いた。馬が舞台に立つことはない。みんな馬車を引くために用意されている馬だ。馬はロクサムにも懐いていたが、最初はルビーのことを警戒していて、からかったり意地悪をしてきたりした。髪の毛を引っ張ったり、突然鼻面を伸ばしてきて、ルビーだけに通せんぼしたりする。
 けれどもしばらくしたら馴染んで、ふさふさしたたてがみをルビーに撫でさせてくれるぐらいにはなった。



 ロクサムと話をしているとき、ついルビーがロクサムの顔のすぐ近くに顔を寄せて覗き込みながら笑いかけようとすると、ロクサムは怒ったような顔をしてそっぽを向く。
 でもルビーの方は、なんとなくロクサムの顔を覗き込みたくなってしまうのだ。
 そのたびにそっぽを向かれるので、うっとうしいと思われているのかな、と、ちょっと気になった。

 以前ブランコ乗りが自分に対してしていたような態度を、ルビーはロクサムに取っているのかもしれない。
 意味もなく彼を見たり、意味もなく笑いかけたりしていて、自分でも変だと思う。
 でも、ルビーはロクサムに笑い返してほしいだけなのだ。

 ルビーが水槽に閉じ込められた日みたいに、ロクサムはあからさまにルビーを拒否するような態度を見せることはない。でも、ルビーが人魚だったときと比べて、なんだか距離ができたような気がする。

 でもきょうは、ゾウの世話を手伝わせてくれるとロクサムが言ったから、いつになくルビーはうきうきしている。