連邦内の出身ということにしておいた方が、のちのち自由民の地位を手に入れたとき、さまざまな便宜を図ってもらいやすいのだという。
 年齢については執事が事前にルビーに確認してくれなかったので、間違ったまま登録されてしまった。

 貴婦人が用意したのは焼印でもタトゥーでもない、登録番号を彫ってある細身の銀細工の、鍵つきのバングルだった。普段はつけなくてもいいけれども、一人で外出するときはつけるように言われた。
 ナイフ投げのような大の男が消えた場合は、自分の意思で逃げ出した以外の可能性はあまり考えられないが、ルビーのような女の子は外出先などで、誰かにさらわれる可能性もある。
 登録番号を記したものを、他人が外せない状態で身につけておくことは、ルビーを守ることになると説明された。
 といっても、ルビーに一人で外出する機会など特にない。なので、いまのところバングルはルビーの部屋の机の引き出しの中で眠っている。

 数日して、家庭教師との顔合わせやら、さまざまな手続きやらも落ち着いた。ルビーは、最初の約束のとおり、見世物小屋に通い始めた。
 早朝、お屋敷の一番小さい馬車で送ってもらい、興行のある日は夜の興行の始まるころまでいて、ない日はお昼頃に迎えの馬車に来てもらう。

 興行のある日の午前中と、2回の興行の合間の時間を、ブランコ乗りに指導してもらって練習に当てる。
 興行のない日にはブランコ乗りは来なかったから、自主的に練習したあとは、舞台道具の整備を手伝ったり、掃除を手伝ったりした。

 といって、座長は以前のように積極的にあれをしろ、これをしろとは言ってこない。貴婦人から預けられた立場であるルビーに対して、遠慮があるのだろう。
 なので、ルビーはやることの優先順位を自分で決めた。

 一番に優先したのは、大天井のロープや渡木、それらを天井に固定してあるボルトなどの点検だ。これは何度か教えてもらって覚え、一人でもできるようになった。
 それから、足場の掃除。舞台全体の掃除。
 他の演目に使う道具の整備や点検も、嫌がられない限り、なるべく手伝うようにした。
 そのときルビーは座員にちょっとしたお願い事をする。
 知っている歌を教えて、というものだ。