碧い人魚の海

「執事さんは無駄口は一切利かないわ」
「ああ、彼は特別カタブツみたいだね」
「見世物小屋では座員がみんな、座長に軽口を叩くわ」
「座長は貴族じゃないよ」
「貴族って一体どんななの?」

 ルビーの質問に、ブランコ乗りは、幾つかかいつまんで例をあげて説明してくれた。
 妻や娘を領主に召し上げられた領民の話。
 苦言をしたために、舌を切り落とされた家臣の話。
 そうとは知らずに料理されて出てきた自分の子どもを食べさせられて発狂した人がいた話。

 また、ブランコ乗りは、「キツネ狩りって聞いたことある?」と聞いてきた。
 それは古くから貴族の間にある遊びの一つだということだった。狩るのは動物のキツネではない。キツネに見たてた人間たちを領地内の原野に放し、猟犬に追わせる。ときには食料と簡単な武器を与え、何日もかけて追いつめ、狩る。
 狩りには何人もが参加し、競い合って行われる。迅速にスマートに獲物を追い詰め、最初に仕留めたものが勝者となる。

 剣闘士試合を好んで行ったという貴族の話も聞いた。
 それぞれの貴族が所有する奴隷同士を剣で戦わせて、それを見物するという催しだということだった。それも、どちらかが力尽きて死ぬまで。その場で勝利した側もしばしば、致命傷を負って助からなかったりしたらしい。

「カルナーナに限って言えば、そのどちらの遊びもずいぶん前から禁じられているし、いまでは連邦全域にも、公式には禁止令が出ているようだけれどもね」
「どうしてそんなひどいことがまかりとおるの?」
 そう聞いたルビーに、ブランコ乗りは答えた。
「力があるからだよ」
「力?」
「ああ、いろんな意味で、彼らは力を持っている。伝承では貴族の血は青いとも言われているね。遠い昔に人々を繁栄に導いた魔物の血をひいているそうだよ」

 青い血。魔物。その言葉に、ルビーはどきりとした。ブランコ乗りをちらりと見たが、それらの言葉とルビーをつなげて考えている様子は彼にはなかった。
「そしてね」
 ブランコ乗りは目を伏せ、テーブルの上で両手を組んだ。
「あの人は、そういった血筋を引いている自分自身に倦んでいるように見えるよ」

「ブランコ乗り……アートは、奥さまのことが好きなのね」
 うつむいたその顔をぼんやりと見ていたルビーの口から思わずこぼれ出たのは、疑問形ではなく断定だった。
「え?」