碧い人魚の海

「わかんない。明日あさっては、部屋の調度を整える相談を執事さんとするようにって言われてるの。絨毯とカーテンの柄も選ぶようにって。それと、仕立て屋を呼んで服の採寸をするからって。あと、美容師を呼んで髪を綺麗にしてもらいましょうとも言われた」
「それはなかなか大変だね」
「家庭教師もつけるって言われたし、なんだかいろいろと大ごとになってきてる気がする。いま無事だって言ったばかりだけど、精神的にはかなり無事じゃないかも」
 ルビーの言い方に、ブランコ乗りはくすりと笑った。
「きみが大丈夫そうで、ぼくも安心したよ。この前、座長と一緒に招かれた晩きみが名指しで残されて驚いたけど、いま聞いた限りでは、あの人はいまのところすぐ、きみをどうこうするつもりはないみたいだし」

 それはどうだろうとルビーは内心思ったが、貴婦人にキスされそうになったことはブランコ乗りには言えず、黙っていた。

「奥さまが何をお考えなのか、あたしにはよくわからない」
「だろうね」
「あなたがあたしを気にかけてくれているから、あたしを手元に置くことで、気ままなあなたを思い通りにできるかもしれないって、おっしゃったわ」
「あの人、そんなことを言ったのか」
 ルビーの言葉にブランコ乗りは目を丸くしたが、即座に否定した。
「でも多分それは、本気じゃないよ。だってあの人、思い通りにならない相手の方が好きだもの」
「そうなの?」
「こんな言い方したら、あの人が変な人みたいだな。いや、実際変な人で何も間違っちゃいないけど。えーと……」
 ブランコ乗りは言葉を探してから、言い直した。
「彼女が好きなのは、たやすくだれかの意のままになったりしない人間だよ、多分……」

 ブランコ乗りは考え込むように視線をテーブルに落とした。
 ルビーはブランコ乗りがこちらを見るときの済まし返った表情や気取った仕草が好きではなかったけれども、そういうときの無防備な表情の彼は、確かに貴婦人が言うように、申し分なく綺麗で、どこか物憂げにも見えて、つい見とれてしまう。
 目や髪の色はありふれた茶色だったけれども、その顔のどのパーツも主張しすぎることなく繊細で整っていて、調和がとれている。といって女性的だというほど頼りないわけでもない。