そのときのことを思い出していたのか、貴婦人は目を閉じて少し小さな声でゆっくりと話していたが、不意に目を開けて、ルビーを覗き込んできた。

「ハルと違ってアーティは自由民だから、わたくしの意のままにはならないの。でなくとも彼は気ままなんですもの。でも、こうしてあなたを手に入れたことで、彼をわたくしに従わせることができるかもしれないわ」

 そこで貴婦人は一度言葉を切って、その反応を窺うようにルビーを見た。

「きょうも夕食に招待したのよ。さっき使いをやって、あなたを買い取ったことを教えたから、きっと慌ててやってくることでしょう」

従わせる?

 最初はよくわからなかった貴婦人の言葉の意味が、ゆっくりと、ルビーの頭の中に浸み込んできた。
 ルビーは立ち上がり、貴婦人を睨みつけた。
 ガタン、と椅子が大きな音を立てて後ろに倒れ、テーブルの上のカップがカタカタと揺れた。