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ー「カゲツ!良うやった、私は嬉しいぞ!」

「おぉ、すごい。俺のところの弟月も出来るようにならんかなぁ。」

「師走兄さん、カゲツ、出来たわ!弟月もきっと出来るわ!」


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ーピピピピピピピ…

「…まただわ…。」

この頃私は夢を見る。
登場人物は三人。「私」と言う一人称の男と、「師走兄さん」と呼ばれる男。
それからカゲツと言う女。私はこのカゲツの視点で夢を見ている。

「都様、朝餉の時間でございます。」

戸の向こうで、平爺が朝餉の事を伝えた。

「わかりました。今行くわ。」

まだ寒い四月の上旬、布団から出たくない気もするが明日から新学期だ。
クラス替えもあるし、初日から寝坊はしたくないからせめて今日だけでも早起きしようと都は決めていた。

もそりもそりと起き上がり、鏡台の前に座ると、父が京都土産で買って来た木製の櫛で丁寧に髪を梳かした。

「そろそろ揃えようかしら?」

長く伸ばしている髪を横でゆったりと結び、都は食事室へ向かった。

都の家には食事をするためだけの部屋がある。そこで使用人や家族と一緒に食事をするのだ。

「おはよう、都。今日も可愛いねぇ。」

「おはようお父さん、今日も加齢臭がするわ。」

「酷いよ都?!」

朝からニタニタしながら座っていた気持ち悪い父親を一蹴し、私も座る。
今日はほうれん草のお浸しと紅鮭と、白米とデザートに栗だった。
…まるで平安時代だ。

「でも…美味しいわ。」

お浸しは味が良く染みていたし、鮭もしょっぱい。素材が良いからシンプルでも美味しいのね。

食後は家の敷地内を散歩しようと思っている。
春休みのおかげで体力も落ちてしまった事だろうし、今日だけやってもあまり効果は期待できないが、まぁやらないよりマシであろう。

「よし、ご馳走様。」