「遠くに行って、もう会えなくても?」
そこで透子は一瞬ためらい、
涙声で答える。
「……うん」
冬馬は深い息を吐き、目を伏せた。
「今まで通りでいいだろ、俺らは」
「そうかな?」
「つうか、そんなマジになるなって」
透子はきょとんとした顔で彼を見つめる。
「別にそこまで真剣な気持ちとかじゃなかったし。
そんな、本気で断るみたいな関係じゃねーだろ、そもそも」
「……そう?」
「そうだよ。
俺もなんか、出来の悪い妹見てるみたいな」
「出来の悪い弟は冬馬でしょ」
「そこにこだわんなよ」
思わずクスクスと笑ってしまう。
「とにかくなんか、家族みたいな感覚だったんだよ。
それがお前の失恋やら
おばさん亡くなったりで重なって、
辛そうな透子見てるうちに
ちょっと分かんなくなっただけだし」
「そっか」
「俺も混乱してたっつーかさ。
でも冷静になるとやっぱ違うだろ?
付き合うなら軽い女の方が楽だし」
「そうだよね」
「だから、お前はせいぜい
上条さんに言うお別れの一言でも考えてろよ」
透子はさっきとは少し違った晴れやかな表情で、
彼に微笑みかけた。
「うん、ありがとう。冬馬」

