上条が顔を上げると、
透子は痛々しい笑顔で微笑んでいた。
「仕方、ありません。
むしろ、きちんと言ってくれてよかったです」
上条はぎゅっと目蓋をつぶる。
「すみません。
こんな、一方的な……」
「嫌だな、
ふったことを謝らないでください。
気持ちが変わるのは、しょうがないです」
その言葉は、自分自身に言い聞かせるような
響きになった。
透子は唇をきゅっと噛み、
ふらりと立ち上がった。
「せめて、送って行きます」
上条の申し出を、控えめな。
けれどはっきりとした声で断る。
「……いえ、一人で帰れます」
彼女は去り際に一度だけ振り向き、
薄い笑顔を浮かべた。
その笑顔はやっぱりいつものように、
儚く美しくて、
触れていないとすぐにかき消されてしまいそうだった。
「でも」
「本当に大丈夫ですから。
直樹さんと一緒だと、辛いので」
ふわりと甘い香りを残し、
彼女はそのまま部屋を去っていった。
上条の心は自分への嫌悪感でいっぱいだった。
自分の選択が正しかったのか、
自信なんて持てない。
これから何度も、今日のことを後悔するかもしれない。
――けれど、
もう
迷わない。