その日、私はホテルに一泊した。

次の日に、どうしても行きたい場所があったから。


次の日、私が向かったのは、その町で一番大きな総合病院だった。

春次郎さんが、一度は救急搬送されて、診断を受けたであろう病院。

きっと、この病院なら春次郎さんのことが分かる。

最後の手段だった。


だけど、普通に聞いても転院先を教えてなんて貰えないって、分かってる。

この方法で上手くいくかなんて、分からない。

でも、小さいし童顔の私は、高校生に間違えられることはよくあるし。

やってみよう―――


病院の受付に、困った顔をしながら向かう。



「あの、」


「どうされました?」


「お兄ちゃんの、転院先を知りたくて。」


「その方のお名前を教えて?」


「高梨……春次郎です。」


「親族であることを証明できるものを持っていますか?」


「え?証明ですか?」


「ええ。簡単には、教えることができませんので……、」


「証明なんて持ってないです。大学生のお兄ちゃんとは離れて暮らしてて、今日は、お母さんに言われてお見舞いに……青森から来たんです。」


「……青森から?それは、何時間もかかったでしょう。」


「はい。それなのに、来てみたらお兄ちゃんいないみたいだし……、このまま帰ったら……」



演技をしているのに、本当に涙が出てきた。

やっぱり、こんな子供じみたことじゃダメかな。

もっと、ちゃんと考えるべきだった……。



「分かりました。未成年だから、証明するものを持っていなくても仕方ないよね。……じゃあ、特別に教えてあげるから、内緒にしてね。」



優しい人でよかった!

きっと、普通じゃこんなこと有り得ない……。

神様が、もう一度春次郎さんと引き会わせてくれたみたいだった。



『東京都 G大学医学部附属病院』



伝えられた病院名に、私は驚く。


ずっと、そばにいた。

こんなに遠くまで、来る必要はなかったんだ。

私の住んでいる、東京に、春次郎さんはいた―――



「ありがとうございます!」



私は彼女に向かって頭を下げると、駅に向かって走り出した。

春次郎さんのいる、東京に帰るために。