「おやすみ…明日香ちゃん」
いつのまにか寝てしまった明日香ちゃんを抱え、彼女の部屋に入る。
部屋をあげたときも家具を買ったときも明日香ちゃんはずっと申し訳なさそうにして、ずいぶんと質素な部屋になってしまった。
女の子っぽくない布団をめくり、明日香ちゃんを寝かす。
女の子と暮らすのは不安だったけど、明日香ちゃんはずっといい子にしてくれたから、問題なかった。
まぁ、ちょっとわがままでも平気だけどね。
「……ん………」
明日香ちゃんが起きたのかと思ったけど、寝返りを打っただけみたい。
「……背中、見えてるし…」
時々子供っぽかったりする、明日香ちゃん。
布団をかけようと思ったとき、あるものがみえた。
腰に、刺青のようなはっきりとした模様が入っている。
貝殻とバラが体に巻き付くように刻まれている。
僕は、風邪を引かないように布団をかけ直し、部屋を出た。
「まさか……と、言いたいけど……やっぱり、なんだよな…」
背中に模様があるのは、予想がついていた。
自分の部屋に戻り、バラが刻まれた古めかしい木彫りの箱を取り出す。
「苦労してとった意味、あんまりなかったかなぁ…」
その中には、緑色の宝石が填められた、ブローチだった。

それは、明日香ちゃんの夢に出てくる金髪の男性が着けているものだと、僕はまだ、知らない。

明日香ちゃんが、“あの時”の記憶があることを、僕はまだ、知らない。