「ちょっと…考えさせて…」
すぐに答えがでなかった。
陽くんは私の大切な人。
それは、家族として?
それとも、男性として?
考えなきゃ。
「いいよ。この選択で…明日香ちゃんに後悔、してほしくないから」
陽くんは腕の力を弱め、私を解放してくれた。
「ご飯、作るね。お昼食べてないから、いっぱい作らないと。ほら、着替えておいで」
そう言いながら立ち上がる陽くん。
机の上に置きっぱなしだったエプロンを取り、着る。
「わかった」
そういえば、ほうれん草、だったっけ。
忘れてた。

またあの地獄があるのかと思うと、夕飯の時間が怖くなってくるのであった。


同じ、夢を見た。
両親が亡くなったときと同じ、夢。
身体中の痛みはなかなか消えない。
ふと、両親の寝室がフラッシュバックする。
「陽……くん…」

嫌な予感がした。

陽くんが、両親と同じように……。

「やだぁ……」

とてとてと、裸足のまま陽くんの部屋に向かう。
陽くんの部屋は近いはずなのに、遠く感じる。
無事でいてよ…陽くん…。
嫌な想像だけがどんどん膨れてゆく。
キィと音を立てながら、陽くんの部屋に入った。
いつも通り、本の積まれた部屋。
その奥に、机に向かう大きな背中がみえた。