記憶と共に幽霊と。

部長と別れ、家に帰る。

夕日に照らされたリビングには、まだ陽くんがソファーで寝ていた。
「陽くん。ただいま」
寝ているようくんに近づく。
気持ち良さそうに寝息をたてる陽くん。
普段は直視できない整った顔もはっきりと見れる。
伸ばしっぱなしの艶やかな黒髪。
健康的な肌と、少し赤い頬。
私の、大切な人。

「お帰り。明日香ちゃん」

急にぱちっと目を開いた陽くん。
凝視していた私と目が合い離れようとすると、腕を引かれ陽くんの胸に飛び込んでしまった。
「よっ…陽くん!」
普段の彼なら起きてすぐ、こんなに動けない。
なら、ずっと起きてた?
「暖かい…」
私をぎゅーと抱き締める陽くん。
それだけで、頬が簡単に赤くなるのがわかる。
「陽くんっ…!離してよ…」
恥ずかしくって動けない。
湯気が出そうなくらい。
「やだ。僕は明日香ちゃんを離さない。だって…」
途中で切られ、続きが気になった。
上を向いて陽くんの顔を見ると陽くんはいつになく真剣な表情で

「明日香ちゃんが、好きだから…」

と言って、微笑んだ。
かあっと頬が熱くなるのがわかる。
本気?なの?
陽くんが、私を好き?
「ほんとに…?ほんとにほんと?」
信じられない。
だって、小さい頃は一緒にお風呂にだって入った。
転んだときはおんぶしてもらったし、泣きわめいたときもあった。
恋愛対象なんかに、なるはずがないと思っていた。
「本当だよ。僕は、明日香ちゃんと、恋人になりたい。そりゃ、明日香ちゃんがちゃんと仕事ができるようになってからだけど、僕が保護者として必要なくなったら、君とはもう会えない。それは嫌だ。僕は明日香ちゃんに、奥さんになってもらえたらってずっと思ってた」
陽くんの、言葉。
心に染みる。