「へぇ…よかったね…明日香ちゃん。……それだけ?」
私の言葉に裏があるように感じたのだろうか。
部長は、勘が鋭いようだ。
「まだ、あります。部長、渚くんと面識があるんじゃないですか?」
部長は判断しにくい案件を任されることが多い。
渚くんのように、判断が難しいもの。
「……ある、と言ったら?」
部長が、真剣な表情で答えた。
あるのなら、知りたいことがある。
「渚くんのお母さんを呪っていたのは、部長ですか?」
私が問う。部長は表情をあまり変えず
「………よく、わかったわね…。私が、あの女の子だって」
答えて、私の目の前まで歩いてくる。
今まで机で隠れて見えなかった足は、うっすらと透けていた。
「部長はなぜ、二人の幽霊に別れたのですか?」
あの女の子は成仏の仕方を知らなかった。
誰もが知っているはずの行動ができないときその悪霊は分身している可能性が高い。
「あのこには、私の中の醜いものを詰め込んだの。だから、どうしようもなかった。渚への想いが強すぎたの」
私の真ん前に来て、視界を埋める。
薄い腰、すらりとした足、陶器のような白い肌。
それはすべて、あのこの理想でもある。
「部長。まさか、自分も消えるつもりだとか言いませんよね?あなたがいないと、私たちは霊研らしい活動すらできない。あなたは必要とされているひとです」
首の横をゆっくりと通り、パイプ椅子の背に手を置く部長。
すごく近い。