通されたのはきれいな客間。
きちんと掃除されていて、シックな色合いの家具が素敵な部屋。
三人掛けのソファに腰掛け、お母さんを待っていると
「どうぞ」
小さく言われ、差し出される日本茶。
暖かく、湯気が立っている。
「いただきます」
少し渋い味だった。
「息子の話って…何かしら?……」
お母さんがそわそわしながら聞いてきた。
私は、湯飲みを置いて、まっすぐに見つめる。
「伝言を、受けました。
『僕のことで、悲しまないで』
と、伝えてほしいと」

言った。

今まで言えなかった言葉。
お母さんはビックリしたような顔をして、ゆっくり、目を伏せた。
「そう…。渚ったら…いつまでも、人のことしか考えてないんだから…」
肩が震える。
声も、噛み締めた唇も。
『僕は、後悔なんてしていない。お母さんのもとに生まれて、幸せだったよ』

響く、霊の声。

お母さんには聞こえない。
「お母さん。渚くんが言ってます。『後悔はない。あなたのもとに生まれてよかった』と、嬉しそうな顔で」
私が伝える。お母さんはきれいな涙を流し、なにも答えることができなかった。