「渚くんのためを思うなら、何もしないでさ…成仏しなよ。今、渚くんはお母さんに伝言を伝えたがってるんだ。今渚くんを一番困らせてるのはあなただよ…」
私の言葉が女の子にショックを与えたことが分かる。
女の子の涙は大きな粒になる。
「成仏、しようよ。そしたら、伝言を伝えることができる。渚くんもちゃんと成仏できる。ね…?」
優しく説き伏せる。
言葉がうまいとは思わない。
でも、私が伝えたいから。
女の子は、涙を拭って
「……私が…悪かった。本当は知ってるの。でも、すでに成仏のやり方なんてわからなかった。この人から離れることもできなかった。どうすることも…できなかったの…」
泣き言を言う。
明が、私のとなりにしゃがんで
「俺たちなら君を成仏させられる。だから…」
と言ったけど、女の子には届かない。
「私…!どうしたらっ…」
女の子の目に涙が溜まる。
明は、諦めたようにため息を吐き、頬を舐めた。
混乱する女の子の頬には紋様が消えていた。
「ごめんね。ちゃんとお話しできなくて。でも、私たちはあなたに幸せであってほしいの。だから…ちょと痛いけど、我慢してね」
明やひかりの声は悪霊には届かない。
だから、私が代わりに言うしかない。
明は、抵抗する女の子の首筋に犬歯を突き立て、血をすすった。
みるみる女の子から元気がなくなっていって、最終的に微動だにしなくなった。
「ばいばい…おねえ…さん…」
眠そうな目で、かろうじて言った言葉がそれだった。