「楽譜見せて下さい。えっと、曲は…」
「セカオワなんだよね」
「まじですか。安西先生が選曲したんですか?」
「いや、山本先生」
「……へえ」
「……ど、どうかな」
「大丈夫ですよ、ちょっと隣いいですか」
そう言うと、空いたスペースへと座る。
…ち、近いんですけど。
「ひ、弾きにくくないかな。立つよ」
動揺しながら立とうとすると、腕をぐいっと引かれる。
「立たなくて大丈夫です」
「……はい」
仕方なく座るけど、完璧体が触れていて変に緊張した。
久住君は一度、譜面をじっと見てそれを元へと戻す。
それから、鍵盤に手を乗せると指を動かして行く。
今、楽譜を見た筈なのにそれはあまりにも滑らかで。
口をぽかんと開けたまま、私は演奏が終わるまで見入っていた。
ポロン、と最後の音が鳴り響いて、久住君は手を鍵盤から離すと私の顔を覗き込む。



