病院を出ると、まだお昼まで少し時間があったんだけど、私たちは早めに昼食をとることにした。
 すぐ近くにあるオムライスのお店から、いい匂いが漂っていたから。



 私たちはまっすぐお店に入ることに。
 店内は、そこそこ混みあっている様子だったけど、幸い、待ち時間なく座ることができた。
 メニューを見ていると、オムライスのお店のはずなのに、オムライス以外の料理も多い。
 私たちは、あえて、お好み焼きセットを頼んだ。
 お好み焼きセットが届くまでの間、私たちはゆったりした気分で話をした。

「うーん、おじいちゃんのアルバムに写ってた人のこと、気になるなぁ」
「ああ、さくらちゃんが会ったことがあるかもっていう人?」
「うん……」
 もう一度会えば、分かるとは思うんだけど……。
「あまり悩みすぎるのもよくないから、話題を変えようよ。もっと明るいことも考えよう」
 涼君は笑顔で言った。
 元気付けてくれてるんだろうなぁ。



 そうこうしているうちに、お好み焼きが運ばれてきた。
 予想以上に美味しそうだ。
 私たちは話題を変えて、お好み焼きとおしゃべりを存分に楽しんだ。



 それから、縁日が始まるまでまだ時間があったので、映画を見ることにした。
 言い出してくれたのは涼君。
 私が同意すると、すぐに映画館に向かうことになった。

 二人で映画って、どう考えてもデートだけど……涼君は、あまり気にしていないのかな。
 それを言い出すと、このあと縁日に一緒に行くのだって、デートということになってしまいかねないかぁ。
 意識しすぎると自分の言動がぎこちなくなりそうなので、深く考えないようにしておこう……。
 すでに深く考えてしまっているような気も、しないではないけどね……。



 映画館では、三つの映画が上映されているようだった。
 涼君が「どれが見たい?」と聞いてきてくれたので、内心ラブストーリーのを見たい気もしたが、それだとモロにデートっぽいので、あえてアクションのを見たいと伝える。
 それは、『茶色い弾丸』というタイトルで、フランス人俳優のショコラ・ジャンバルジャン主演の映画だ。
 涼君は「実は、僕もそれが見たかった」と笑う。
 意図したことではないけど、涼君が見たいものを見ることができてよかった。

 迫力がある映画で、なかなか面白かった。
 私は隣の涼君が気になってしまい、ずっと映画に集中できていたわけじゃないけど。



 映画館を出ると、すでに午後四時を回っていた。
 あたりは真昼間と同じ明るさで、全然夕方の気配はなかったけど。
 でも、暑さは少しだけ和らいできた気がする。

「そろそろ縁日のある神社に行く準備をしよう」
 涼君は、元気よく言う。
「準備って? このまま向かっちゃダメかな?」
「さくらちゃん、せっかくそのバッグに浴衣を入れてきたんでしょ?」
 きょとんとした表情で涼君が言う。
 そうだった~!
「そうだったよね……。それじゃ、いったん着替えに戻ってもいいかな?」
「もちろん」
 そういうわけで、いったん清涼院家へ戻ることに。
 自宅は蒸し風呂状態のままだろうと簡単に想像がつくので、清涼院家とどちらに向かうか迷うまでもなかった。