「お連れの彼に見られると僕は怒られそうだから、すまないがここで降りてくれ」
 本間さんは、少し申し訳なさそうに言う。
「ああ、そうだった! これを返しておかないとね」
 そう言うと、なんと私のスマホを取り出し、私に渡したのだった。
「あれ?! いつの間に盗んでたんですか!」
 私は思わず叫んだ。
 信じられない!

「こら、盗むとか人聞きの悪い言い方をしないでくれ」
「現に、盗んでるじゃないですか!」
「いや、少し借りていただけだよ。どこかに突然連絡されても困るからね。車の中で、僕が君の腕と口を封じていたとき、バッグの口からはみ出ていたのを見つけて、咄嗟に借りておいたんだ」
 さすが怪盗団の首領さん……。
 でもそれにしても……気づけよ、私!
 思わず自分に突っ込む。
 スマホを盗られてるのに、返されるまで気づかないのん気さ……我ながらダメすぎる。
 私は返されたスマホをまじまじと見つめた。
 電源が切られていたので、すぐに入れる。
 やはり予想したとおり、涼君からの連絡が何件も入っていた。
 心配をかけちゃった……。
 ま、まぁ悪いのは本間さんだと思うけど。
「拘束したり、無理矢理連れて行ったのは悪かったよ。それじゃ、またね」
「いえ、はい、それでは失礼しますね」
 私は軽く頭を下げてから、車を降りた。
 すると、本間さんはすぐに車を発進させ、あっという間に去っていく。
 あっけない感じ。
 私たちは実の親子かもしれないのに……次、会う約束とかはしないのだろうか?
 でも、私にもそういうマイペースなところがあると、沙織たちに指摘されているので、本間さんと私は性格的に似てなくもなかった。
 それに、ひじのアザのこともあるし……。
 うーん……。

 あ、考え事をしていてはキリがないし、それに今はそれどころじゃない……。
 涼君が心配してるはずだ。
 私はすぐに涼君に連絡を入れた。

「さくらちゃん?!」
 電話の向こうから、涼君の心配そうな声が聞こえた。
「涼君、ただいま! 今どこ?」
「俺は東京駅の近くにいるよ。それより、無事なの?! さくらちゃんは今どこに?」
 涼君の声は、動揺を隠しきれていなかった。
 かなり心配をかけちゃったみたい。
「うん、どこも怪我してないよ。心配をかけちゃって、ごめんね。涼君は大丈夫だった? 私もすごく心配だったよ」
「俺も大丈夫。はぁ、よかった~。あいつ、素直にさくらちゃんを解放したの? 今までどうしてた?」
「詳しい話は、合流してからね。私たちはここの地理に詳しくないから、何か目印を決めて落ち合おうよ」
「それもそうだね、ごめん。安心して、つい、色々聞きたくなっちゃって」
「気にしないでね、私もだし」
 そして私たちは連絡を取り合いながら、東京駅にて落ち合うことにした。



「よかった!」
 私を見つけた涼君が全速力で駆け寄ってきて、私の左手を両手で握ってくれた。
 ちょっと恥ずかしい……。
 でも、嬉しい。
「遅くなりすぎても困るから、とりあえず帰り支度を始めよう。疲れてると思うし、詳しい話は帰ってからでもいいからさ」
 涼君は、相変わらず優しい。
「大丈夫。新幹線の中で、詳しい話はするよ」
 そして私たちは、帰りの新幹線に乗りこんだ。